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Bloodyberry jam Snow-styleⅠ |
イリスの石塔が出来てから暫くして、見たこともない奴等がやって来た。風の噂だと、イリスに呼ばれてこの世界へ来たとかぬかしてやがるが……アタシは、そんなの認めない。 なぜなら、奴等はアタシの家畜のケモノプリリンを勝手に狩るのだ。それだけじゃない、制止しようとしたアタシを見つけるや否や、意味不明な声を上げてアタシに襲い掛かってくる。あいつらの狙いは、アタシのアイスエッジ……アタシの魂を狙っている。 アタシだけじゃない。ワル気取りのゴブリン達や、いけ好かないエロテロリストのビーナクイーン……果ては、イリスと一緒に旅をしていた黒月姫と言うアオイチのお姫様の命まで狙っているという……そんなの、アガシュラじゃないか。いや、アガシュラだ。アガシュラそのものだ。 でもいくら奴等がアタシの魂を奪おうとしても無駄だ。アタシの魂はもう総てイリスにあげたのだから……あいつ等は絞りかす程度のアイスエッジで満足しやがる……本当、穢い。やっぱりアガシュラだ。 だからこそ、アタシは奴等を許さない。奴等はイリスの力を悪用したアガシュラだ、イリスと約束したんだ……アガシュラを倒すって……幸いにも、イリスの石塔ができてから、普通なら死んでいるはずの攻撃でも死ななくなっていた。何度かビントーに挑んで、それでもこうして生きて居られるのはやっぱりイリスのおかげだろう……けど、死ぬときの全身を逆流する血の感覚だけは慣れないけど。 イリス、見ててね。アタシがアガシュラを倒すよ。アタシがイリスを助けるよ。待ってるのはもう……嫌だ、辛いよ――イリス。
「……っ!! はぁっ……はぁっ……」 「……」
今、アタシの目の前に居るのはエルパの冒険家が愛用している服を着た、赤い髪をウサギの耳のように束ねているツインテールの女。その手には、ブラッディハートボウが握られている。 この女……レベルが違いすぎる。偶にアタシを付けねらう奴等にもアタシよりレベルの高い奴も居た……恐らくこいつも同じようにレベルの高い奴……だけど、それ以上にやばい何かを持ってる……
「はぁーーっ!!」
カキン!と音を立てて、アタシの投げた槍が弓で弾かれる。そのときの女の目は……どこか微笑っているようにも見えた。これも風の噂で聞いたが、イリスに呼ばれた人間の中には、英雄とよばれるほどの実力者も居るという…悔しいけど実際、そういう奴も居た。でもそんなのは本当にごく少数だ……殆どの奴等はアガシュラと大差ない。 …でもコイツは……殺しを楽しんでる奴だ。コイツの腰には血で濡れてさらに赤く染まった赤爪が見え隠れする……アタシの体力も限界だった。でも……こんな奴に殺されるくらいなら……アタシは魂の力でアイスエッジを創る。そして、自らの胸元に突き立てる。
「はぁ……はぁ……お前なんかに……殺されてたまるか。この身体も、魂も……全部、全部イリスにあげたんだ!お前何かに……アガシュラヤローなんかに穢されて、たまるかっ!」
嗚呼、この台詞何度目かな……アタシは迷うことなく、アイスエッジを胸に突き刺す…… その時だった、アタシの手に何かが当たって、アイスエッジがアタシの手から弾かれる。見れば、あの女が矢でアタシの手を弾いたのだ。傷自体は単なるかすり傷……問題は無いけど、女の足元に転がったアイスエッジがビキビキと音を立てて雪に帰った……それを見届けると、女は弓を鞘に戻しながらアタシに迫ってくる…… どうやら、アタシをその手で葬らないと気が済まないみたいだなこの女……嫌だな……こんな奴等に殺されたくなんか……n
「制裁チョーップ!!」
ゴスンと音を立てて、アタシの頭にあの女のチョップが決まった。うわっ、心の準備がない分……素で痛い。 アタシが頭を抱えながらあの女を睨む。あの女はというと……呆れたようにため息なんか吐きやがった。な、なんかムカつく……いや、すっげぇええムカつく!!
「……ったく、この世界の奴等って一言目には『このアガシュラヤロー』、二言目には『全部イリスにあげたんだ』の繰り返しばっか……あー、マジウッザ~……」 「いっつ~~……うっせぇ、お前等なんかに何がわかるってんだよ!!」 「そりゃそうでしょ……戦わなければ私達成長できない風に改造されちゃってるし。ってかさ~、だぁれも教えてくれないんだもん。理解しあえる訳ないでしょ?」 「ふん!!お前等アガシュラヤローなんかに教えることなんて一つも無いね!!」 「うっわー……君、そこまで私達嫌ってるんだね。ま、君の言いたい事もごもっともだけどさー……ん?」
急に、女が明後日の方向を振り向く。あ、何か声が聞こえてきた……ん?この声ってまさか……
「とぉりゃあ~~!!」 「わわっ!!?」
突然の不意打ちに、女はあっけなく雪に埋もれた。女に不意打ちしたのは……チョーキーだった。 チョーキーは女を雪の中に突き倒して、アタシの前に仁王立ちする。
「お姉ちゃんをいじめるなこのあがしゅらやろ~~!!こ、これ以上いじめるなら……こ、こここ……このチョーキーが……相手に相…手に……ひっく、ぐすっ……こ、ここ怖くなんかないもん……この、あがしゅらやろー!!」 「チョーキー!! なんでこんなところに来たんだ、早く温泉に戻って…」 「……やだ」 「え?」 「だって、お姉ちゃんいっつもいっつも怪我して帰ってくるもん……でも、お姉ちゃん何でもないっていうけど、私知ってるんだよ!!お姉ちゃん苦しんでるんだもん、だから……だから、チョーキーがお姉ちゃんを守るの!!これ以上、お姉ちゃんの泣いてる姿見たくないんだもんっ!!」
チョーキーは涙目で、怖くて震えながら……それでも、アタシを守ろうと必死にここまでやって来たんだ……嗚呼、アタシ……なんて馬鹿だったんだろう。守らなきゃいけないもの、ほっぽり出して……こんな奴等と戦ってばっかりで……ごめんね、チョーキー。アタシ、守らなきゃいけないもの忘れてたよ。
「チョーキー……お姉ちゃんが悪かったよ……でも、ここは危ないんだだから早く」 「嫌!!お姉ちゃんも一緒に帰らないと嫌!!」 「でもまだあの女が……」 「そうっすよ!ったく、大事なご主人(仮)になんて事しやがるんでい!!」
突然、アタシとチョーキーの目の前に見知らぬペンギンが居て、しかも喋ってやがる!ちょっと待て、今コイツご主人って言わなかったか?まさか……さっきの女の……
「おいお前!アタシ達に何の用が…「うわー!!可愛い~~♪」 「……え?あの、チョーキー……?」
チョーキーはあの女の連れてるペットらしきペンギンを見るや否や、可愛い可愛い言って抱きしめ始めた。いや、確かにそりゃあ可愛いかもだけどさぁ……そのペンギン、骨が折れそうなほどに抱きついちゃ駄目だって!!
「お姉ちゃん、この子とっても可愛いよ!!ねぇねぇ……この子飼っちゃだめ?」 「ちょ、ちょっと待ちな嬢ちゃん!!あっしにゃあ今あそこで雪に埋まって冬眠寸前って言うだらしねぇが、大事な主人(仮)が居るんでぃ!てゆーか離してくれぃ……」 「やだやだ!チョーキーが面倒見るもん!!チョーキーとお姉ちゃんと居る方が楽しいんだもん!!」 「ぎょわー!!ぐ、ぐるじ……セ、セルキーの姉御ぉ……ここは一つ、じ、慈悲の手を……うげっ、折れる!みしみし言ってる!!」 「・・・…あ、あーチョーキーまずは離しなさい。じゃないとペンギンさんが死んじゃうから」 「うん!判ったー」 「げほっ、ごほっ、かはぁ……あ、危うく幼児に殺されるところだったんでぃ……」
あー……何が何やら……なんだかもう馬鹿らしくなってきたよ……まぁとりあえずだ……あのペンギンが言ってる通り、雪に埋もれたとたん冬眠したグリーンウォーキーみたいに凍えているこの女をどうするかだな……
「……よし、放置して今日はもう帰るか」 「うん!!ペンギンさん、一緒に行こー。温泉も有るんだよ、へへっ」 「ま、待っておくんなせぇ!!元々主人(仮)がここに来る羽目になったのも、あっしのせいなんでぃ!!どうか一つ、どうか一つこの主人(仮)も一緒に連れてっておくんなせぇ!!」 「……まぁ、また襲ってくるなら雪の中ぶち込めば良いんだし、良いよ。連れてってやるよ」
とりあえず、冬眠しかけているこの女の足を引きずりながら、アタシは温泉へと歩いていった。チョーキーはと言うと、もう女のことなんか忘れて、ペンギンに夢中だ。ぎゅーっと抱きついたまま離れようともしない……まぁ、たまには良いかもな。こんな変てこな日があっても。
Bloodyberry jam Snow-style…まだまだ調理中。
やぁ皆さん、読んでいただけましたか。それはとても光栄なことです。妖魔・木海月です。 ラテールの住人ってのは、モンスター人間問わず可愛いものが多くて好きですね。 けど戦わないと成長しないのです……でもそれって、ちょっと虚しいよねって思います(朝来
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